●細胞周期と抗がん剤
前述のように、抗腫瘍薬は異なる細胞周期に働きかけるもの、用量規定因子が異なるもの、作用する部位が異なりシナジーを得られるものを組み合わせて作られている。
実際の有効性はEBMによってなさられるべきだが、ある程度の理論的背景は存在する。
細胞周期はDNAを合成するS期、有糸分裂をするM期に分かれる
。細胞が分裂し、DNAの合成が始まるまでをgap1(G1),といいDNAの合成が終了し有糸分裂が始まるまでをgap2(G2)という
。これらはサイクリンとサイクリン依存性キナーゼによって調節されており、これらを監視する系に数多くの癌抑制遺伝子が存在する。
原則としてはアルキル化薬は細胞周期非依存性に働き、それ以外は何かしら周期に特異的に働く。
傾向としてステロイドはG1に働き、代謝拮抗薬やトポイソメラーゼ阻害薬はDNA合成のS期に働く、ビンカアルカロイド系など微小管機能阻害薬はM期に働く。
基本的に用量規定因子は骨髄抑制であることが多く、それゆえに骨髄機能を温存する為に間欠的スケジュールで投与する場合が多い。
●抗がん剤の種類
抗がん薬を分類すると、アルキル化剤 (alkylating agents)、代謝拮抗剤 (anti-metabolites)、植物アルカロイド (plant alkaloids)、そして抗腫瘍剤がある。
全ての薬剤はDNA合成あるいは何らかのDNAの働きに作用し、作用する細胞周期をもって分類する。
この項では抗がん剤の類縁物質は抗がん剤として使われない薬物でも記載する。
傾向としては抗菌薬の類縁物質は抗がん剤としても利用可能なことが多い。
新しい化学療法剤にはこの分類が適当でないものがあり、例えば、分子標的薬のメシル酸イマチニブ (imatinib mesylate) (Gleevec or Glivec) はチロシンキナーゼ阻害剤である種のがん(慢性骨髄性白血病や消化管間質腫瘍 Gastrointestinal stromal tumors)などの異常タンパク質に直接作用する。
●治療形態
今日においては化学療法剤を管理する方法は数多く存在する。
集学的治療 (combined modality chemotherapy) は薬剤のほかに(放射線療法や外科手術など)他のがん療法を併用する。
今日では多くの腫瘍がこの方法で治療されている。
多剤併用療法 (combination chemotherapy) はいくつもの薬剤を同時に患者に投与する同様な治療法である。
薬剤は異なる作用機序と副作用のものが選択される。
1つの薬剤の場合と異なり、がんが耐性化を獲得する機会が最小になるのがこの方法の最大の利点である。
(術後)補助化学療法 (adjuvant chemotherapy) は、外科手術などによりがんが取り除かれた後に一定期間行われるもので、がんが存在する証拠がほとんど無い場合に使用される。
この療法によって再発のリスクが減少する。
この療法は腫瘍が増殖する際に耐性を獲得する機会を減少させる手助けになる。
体の他の組織に転移した腫瘍細胞を殺すのにも有効であり、新たに増殖し盛んに分裂する腫瘍はとても感受性が高いので、しばしば効果的でもある。
また、手術の前に化学療法を行う治療法も乳癌等を中心に行われており、これは術前化学療法 (neoadjuvant chemotherapy) といわれている。
一般に抗がん剤の投与量は、その効果を最大限に引き出すため、患者が耐えうる最大の投与量(最大耐用量 : MTD)で設定されている事が多い。
そのため、化学療法の治療計画は、使用する抗がん剤の組み合わせはもちろん、治療を受ける患者の背景(全身状態、臨床症状、合併症、既往歴など)に応じて慎重に決定される。
また、治療中も患者の臨床症状や臨床検査値などを定期的に確認し、治療効果と副作用のバランスを鑑みながら治療計画を修正していく。
ラベル:化学療法