2014年06月12日

抗がん剤の種類 などなど

●抗がん剤の種類

主な抗がん剤は以下に大別される。

DNA合成あるいは何らかのDNAの働きに作用し、作用する細胞周期をもって分類する。

この項では抗がん剤の類縁物質は抗がん剤として使われない薬物でも記載する。

傾向としては抗菌薬の類縁物質は抗がん剤としても利用可能なことが多い。

●アルキル化薬 (alkylating agents)

●白金化合物

●代謝拮抗薬 (anti-metabolites)

●トポイソメラーゼ阻害薬

●微小管阻害薬

●抗生物質




●●アルキル化薬●●

アルキル化薬は細胞内条件下で、種々の電気陰性基をアルキル化することからその名称がつけられた。

アルキル化剤は直接DNAを攻撃して二重鎖のグアニル塩基同士を架橋することで腫瘍の増殖を停止させる。

架橋によりDNAは一本鎖になったり分離することが出来なくなる。

二重鎖が解けることはDNAの複製に必須の為、細胞はもはや分裂することができなくなる。

●ナイトロジェンマスタード(nitrogen mustard)類 (マスタードガスから誘導されたもの)

●シクロホスファミド(CPA エンドキサン)

●イホスファミド(IFM イホマイド)

●メルファラン(L-PAM アルケラン)

●ブスルファン

●チオテパ(TEPA テスパミン)



これらはアルキル基を有する求電子性分子であり、このアルキル基がDNAの求核性部位と間に共有結合を形成する。

これによりDNAを周期非特異的に傷害する。

最もよく使われるのがシクロホスファミドであるが、用量規定毒性は骨髄抑制である。

有名な副作用に出血性膀胱炎があるが、メスナ(ウロミテキサン)にて予防がある程度可能である。

また、シクロホスファミドを始めとするアルキル化薬は免疫抑制薬として用いられることもある。

この場合は抗腫瘍薬としてよりも低用量である。

●ニトロソウレア類

●ニムスチン(ACNU ニドラン)

●ラニムスチン(MCNU サイメリン)

●ダカルバシン(DTIC、ダカルバシン)

●プロカルバシン(PCZ 塩酸プロカルバシン)

●テモゾロマイド(TMZ テモダール)

●ベンダムスチン(トレアキシン)



いずれも悪性リンパ腫や慢性骨髄性白血症で用いられることがある。

ニトロソウレア類は中枢神経の移行もよく、脳腫瘍に用いられることがある。




●●白金製剤●●

シスプラチン(CDDP ブリプラチン)

カルボプラチン(CBDCA パラプラチン)

オキサリプラチン(L-OHP エルプラット)

ネダプラチン(CDGP アクプラ)

用量規定因子は腎毒性があり、この他に悪心、嘔吐といった消化管症状もよく見られる。

カルボプラチンはシスプラチンの腎毒性を軽減し、抗腫瘍効果も同等であることから、シスプラチンに置き換わって使用される傾向がある。

オキサリプラチンは大腸癌直腸癌に有効性が示されている。

よく知られている副作用に末梢神経障害があり、FOLFOXの患者にしばしば起きる。




●●代謝拮抗剤●●

代謝拮抗剤 (anti-metabolites) はDNAの構成要素のプリンやピリミジンのイミテーションであり、(細胞周期の)S期にDNAへのプリンやピリミジンの取り込みを防止する。

それにより、正常な増殖や分裂は停止する。

重要な代謝拮抗剤の代表として5-フルオロウラシル (5-FU) が挙げられる。


●葉酸代謝拮抗薬

葉酸は1炭素単位の移動(C1代謝という人もいる)を含む多くの酵素反応に関与するビタミンである。

これらの反応はDNAとRNAの前駆体、グリシン、メチオニン、グルタミン酸といったアミノ酸、ホルミルメチオニンtRNAや他の重要な代謝産物の生合成に重要な反応である。

植物は自ら生合成するが人は生合成することができず経口摂取する。

しかし、DHF、THF、MTHFの変換といった代謝は行われているので、その部位をターゲットとした場合、葉酸代謝阻害薬でヒト細胞も傷害できる。



●ジヒドロプテロイン酸シンターゼ阻害薬

これは葉酸の生合成経路の阻害であるので、細菌に対して選択毒性を持つ。

抗腫瘍薬では用いることはない。

ST合剤に含まれるサルファ剤がこれにあたる。

スルホンアミド系薬物とスルホン系薬物というものに分類されることが多い。

スルホンアミド系薬物としてはスルファジアジンとスルファメトキサゾールが挙げられる。

スルファメトキゾールはバクタやバクトラミンといったST合剤にも含まれている。

スルホンアミド系薬物は血清アルブミンとの結合部位をめぐりビリルビンと競合するので、新生児黄疸の原因となる。

スルホン系薬物にはジアフェニルスルホンなどがあり、ハンセン病の治療に適応があるが、約5%の患者で投与後にメトヘモグロビン血症を起こすので使いにくく、あまり馴染みがない。



●ジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害薬(DHFR阻害薬)

これは抗菌薬としても抗腫瘍薬としても免疫抑制薬としても用いられることがある薬である。

メソトレキセート (MTX) 、トリメトプリム、ピリメタミンという3つの薬が重要である。

トリメトプリムはバクタやバクトラミンといったST合剤に含まれている抗菌薬である。

尿中にそのままの形で排出されることから尿路感染症の治療で使いやすい。

ピリメタシンは抗寄生虫薬として使われることが多く、何といってもトキソプラズマ症に効果的な唯一の治療薬である。

スルファジアジンとの併用でシナジーを得るので非常に良い治療ができるのだが、日本ではスルファジアジンが適応外である。

ピリメタシン自体でもマラリアに対して有効であるが、近年、耐性が問題となっている。


さて、ここで気がつくのだが、トリメトプリム、ピリメタシンは抗腫瘍薬としては全く用いられない。

DHFR阻害薬はテトラヒドロ葉酸の細胞内供給を決定的に不足させ、結果的にプリンとチミジンの新たな合成停止させることによってDNA合成とRNA合成を阻害する。

DNA合成が停止するため細胞はS期で停止させられる。

この理屈ではバクタ投与ではもっと激しい副作用が出てもよさそうである。

しかしそれが出ない。

サンフォードガイドでは尿路感染症 (UTI) の第一選択はST合剤となっているほど安全な薬物である。

実は細菌、原虫、ヒトではDHFRのアイソフォームが異なるため選択毒性が働いているのである。

メソトレキセートはアイソフォームに関係なく阻害する。

がん細胞の方が分裂回数が多いから選択毒性になるとかつては考えられたが、S期に止まるだけなら大した効果は上がらないはずである。


現在ではメソトレキセート投与は腫瘍細胞をアポトーシスに導き、正常細胞をアポトーシスに導かないということが選択毒性となっていると考えられている。

即ち、p53やBcl-2のようなアポトーシス制御蛋白に変異があるとメソトレキセート耐性となってしまうのである。

もちろん、分裂回数はある程度の関係はしていて消化管粘膜や骨髄抑制は出現する。

HD-MTX療法はフォリン酸(=ホリナート)救援療法によって普及した。

機序は不明な点が多いが、メソトレキセート投与後数時間後にフォリン酸(ロイコボリン)を投与することで正常細胞を救援することができる。

HD-MTXの投与量はフォリン酸救援療法(ロイコボリンレスキュー療法)を行わければ致死的であるので注意が必要である。

メソトレキセート、シタラビンと同様血液脳関門 (BBB) を透過性のある数少ない薬物の一つである。

中枢神経DLBCLにおいては非常に頼りになる。

血液疾患の他には乳癌、肺癌、頭頸部癌、絨毛癌にも適応がある。

葉酸は胎児細胞の適切な分化と神経管の閉鎖のために重要であるため、DHFR阻害剤の胎児への投与は禁忌である。

近年はメソトレキセート単剤、もしくはプロスタグランジン類似物質のミソプロストールとの併用で妊娠中絶薬として臨床試験が行われている。

(続く)

posted by ホーライ at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 抗がん剤について | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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