抗がん剤(こうがんざい、anticancer drug)とは、悪性腫瘍(がん)の増殖を抑えることを目的とした薬剤である。抗癌剤、制癌剤とも。
●抗がん剤の概説
抗がん剤とは悪性腫瘍の増殖を抑えることを目的とした薬剤のことである。
抗がん剤を用いた療法は、「化学療法」に分類されている。
抗がん剤はもともと強い毒性を持つものが多く、がん細胞だけでなく健常な細胞の機能までも抑制(妨害)・破壊することにより、患者は抗がん剤の強い副作用に悩まされてきた経緯がある。
抗がん剤の副作用として一般的なのは脱毛、吐き気(悪心)、骨髄抑制、口内のただれ、肌荒れ、等々である。
なかでも悪心(吐き気)は患者をひどく苦しめる、と言われており、一般的に言えば抗がん剤の投与を選択するとQOLが低下する、ということは言われている。
●抗がん剤の作用機序
抗癌剤の作用機序としては、DNA合成阻害、細胞分裂阻害、DNA損傷、代謝拮抗、栄養阻害などがある。
腫瘍細胞はいくつかの種類のものが混在しており、更に耐性を得やすく、抗癌剤の持つ毒性のため投与量に制限があることが多く、単剤投与は失敗に終わることが多いため一般に多剤併用療法となる。
多剤併用療法であっても、やみくもに組み合わせればよいというものではなく、いくつかの重要な経験則がある。
標的とする分子が異なる薬物、有効とされる細胞周期の時期が異なる物質、用量規定毒性が異なる薬物を併用するのが一般的である。
さらにできるだけ相乗効果(シナジー)を得られる投薬を工夫する。
このようにすることで、結果として最小の毒性で最大の結果が得られると考えられている。
また、近年は支持療法の進歩で、多くの抗がん剤において最大耐容量をさらに増やすことができるようになったということが注目に値する。
G-CSFの投与によって骨髄抑制の回復を図る時間を短く取ることができ、アロプリノールの投与によって、腫瘍融解症候群を抑制し、全身合併症を減少させることができるようになった。
フォリン酸(ロイコボリン)の投与によってメソトレキセートの大量投与が可能になった。
またフォリン酸とフルオロウラシルの併用がフルオロウラシル単独投与よりも治療効果が高いということも分かってきた。
またacute emesisの治療薬が開発されることにより、治療中も食事摂取が可能な場合が増えてきたといったことが挙げられる。
感染症治療と抗がん剤投与が原理がほぼ同じであるため、感染症学で多用されるPD(薬力学)、PK(薬物動態学)といった概念は腫瘍学でも有効であり、抗がん剤にもシナジーは存在し、脳腫瘍では血液脳関門があるため使用薬剤は制限される。
抗菌薬投与で髄液移行性が問題となったように、脳腫瘍に有効な抗がん剤は極めて少ない。
非ホジキンリンパ腫は基本的にR-CHOP療法で治療されることが多いが、病変が脳の場合はR-CHOP療法は有効でなく、HD-AraCやHD-MTXといった治療が選択される。
がん細胞は細胞周期が速く進む(分裂が速い)といったところを標的にすることが多いが、アポトーシス感受性の違いも重要なターゲットとなる。
細胞周期がターゲットなると、骨髄や消化管上皮、毛包といった細胞周期が早い正常細胞も攻撃される。
抗がん剤で必発と言われる症状は骨髄抑制、悪心、脱毛である。
●細胞周期と抗がん剤
前述のように、抗腫瘍薬は異なる細胞周期に働きかけるもの、用量規定因子が異なるもの、作用する部位が異なりシナジーを得られるものを組み合わせて作られている。
ある程度の理論的背景は存在する(ただし、薬剤が実際に有効なのか、あるいは効果がないのかという点については、実際に疫学的な調査を行ってみるまで判らない。つまりEBMによってなされなければならない)。
細胞周期はDNAを合成するS期、有糸分裂をするM期に分かれる。
細胞が分裂し、DNAの合成が始まるまでをgap1 (G1) といい、DNAの合成が終了し有糸分裂が始まるまでをgap2 (G2) という。
これらはサイクリンとサイクリン依存性キナーゼによって調節されており、これらを監視する系に数多くのがん抑制遺伝子が存在する。
原則としてはアルキル化薬は細胞周期非依存性に働き、それ以外は何かしら周期に特異的に働く。
傾向としてステロイドはG1に働き、代謝拮抗薬やトポイソメラーゼ阻害薬はDNA合成のS期に働く、ビンカアルカロイド系など微小管機能阻害薬はM期に働く。
基本的に用量規定因子は骨髄抑制であることが多く、それゆえに骨髄機能を温存する為に間欠的スケジュールで投与する場合が多い。
(続く)