歴史
試験管に血液を取り遠心分離すると上に血漿、下に赤血球が分離し、中間に白血球を含む白灰色の薄い層が現れる。
白血病では中間の白灰色の層の厚みが増していることがある。
19世紀半ば、ドイツの病理学者ルドルフ・ルートヴィヒ・カール・ウィルヒョー(ウィルヒョウ,フィルヒョウ)が巨大な脾腫を伴い、血液が白色がかって死亡した(今で言う慢性骨髄性白血病)患者を調べて報告したのが白血病の血液疾患としての最初の認知であるが、ウィルヒョーの報告ののち、白血病は経過が比較的ゆっくりなものを慢性白血病、早いものを急性白血病と分類され(現在の分類法とは違う)、1930年代には細胞科学的手法によってリンパ性と骨髄性に分類されるようになった。
しかしウィルヒョーの報告からほぼ100年にわたって、白血病には有効な治療法はなく、急性白血病で数週から数か月、慢性白血病でも数か月から数年で死亡する死の病であった。
第二次世界大戦後に登場した抗がん剤 6-MP が白血病に適用され始めたが、抗がん剤の種類も知見も少なく、血小板輸血や抗生物質も乏しかった1960年代までは死の病である状況は変わらなかった。
1960年代からは抗がん剤の種類・知見も増加して抗がん剤 Ara-c とダウノルビシンの多剤併用療法が開発され、抗生物質もさまざま登場し、少しずつ白血病に立ち向かえるようになっていった。
1960年代後半からは抗がん剤の多剤併用療法の改良によって白血病が治癒する例が増え始め、同時に抗生物質の充実、1970年代から始まった血小板輸血などの支持療法の進歩もあり、急性白血病患者の70-80%は一旦は白血病細胞が見られなくなるようになったが、しかし、多剤併用療法のみでは再発は少なくなく、最終的には多剤併用療法のみでの治癒率は30-40%程度で頭打ちになっている。
その後1970年代から研究の始まった造血幹細胞移植が1990年代から本格的に適用され始め、化学療法だけでは長期生存は難しい難治例でも造血幹細胞移植で2-6割の患者は長期生存が期待できるようになった。
また急性前骨髄球性白血病 (AML-M3) で画期的な治療法である分化誘導療法の発見、2001年には慢性骨髄性白血病 (CML) の分子標的薬グリベックの登場など、AML-M3 や CML、予後が良い小児ALL などでは大半の患者が救われるようになってきている。
●血の色と白血病の名の由来
白血病は、前述したウィルヒョーが見た死亡患者の血液が白っぽくなっていたので、ギリシャ語の白い (λεύκος) と血 (αίμα) をラテン文字へ換字した (leukos) と (haima) から造語した leukemia(白血病)と名付けたといわれる。
ウィルヒョーが見た患者では極端に白血球が増加し血液が白っぽくなっていたと考えられるが、実際に血液が真っ白になることはなく、白血病細胞が極端に増えた例で通常は濃い赤色である血液が赤から灰白赤色になるだけで、ほとんどの白血病患者では血液の色は赤いままである。
血液の赤色は赤血球の色であるが、赤血球が完全になくなる前に人は死亡するので血液が完全に真っ白になるまで生存することはできない。
白血病によって貧血が強くなると血の色が薄くはなる。
また同様に、赤白血病(FAB分類M6)でも血がピンクになるわけではない。一方、家族性リポ蛋白リパーゼ欠損症では血の中に中性脂肪が溜まり血が乳白色となるが、これは白血病とは呼ばない。
ちなみに健康人の血液を遠心分離すると下層には濃い赤色の赤血球、上層には黄色みかかった透明の血漿に分離するが、中間にはやや灰色がかった白い薄い層が現れる。白い層をなす血液細胞をギリシャ語由来の(白い)を意味する leuko と細胞を表す cyte を併せて Leukocyte:白血球と名付けられた。
白血球の一つ一つは実際には無色半透明だが多く集まると光を乱反射して白く見える。
白血病患者のほとんどでは白血球あるいは白血球同様に無色半透明な芽球が増加しているので血液を遠心分離すると中間の白い層の厚みは増加している。
白い層の増加の程度が甚だしいと血液の色も変化する。
●症状
白血病の症状は急性白血病と慢性白血病では大きく違う。
急性白血病の症状としては、骨髄で白血病細胞が増加し満ちあふれるために正常な造血が阻害されて正常な血液細胞が減少し、正常な白血球の減少に伴い細菌などの感染症(発熱)、赤血球減少(貧血)に伴う症状(倦怠感、動悸、めまい)、血小板減少に伴う易出血症状(歯肉出血、鼻出血、皮下出血など)がよく見られ、ほかにも白血病細胞の浸潤による歯肉の腫脹や時には(とくに AML-M3 では)大規模な出血もありうる。
さらに白血病が進行し、各臓器への白血病細胞の浸潤があると、各臓器が傷害あるいは腫張し圧迫されてさまざまな症状がありうる。
腫瘍熱、骨痛、歯肉腫脹、肝脾腫、リンパ節腫脹、皮膚病変などや、白血病細胞が中枢神経に浸潤すると頭痛や意識障害などの様々な神経症状も起こりうる。
急性リンパ性白血病ではリンパ節・肝臓・脾臓の腫大や中枢神経症状はよく見られるが、AML では多くはない。
ただし、これらの諸症状は白血病に特有の症状ではなく、これらの症状を示す疾患は多い。故に症状だけで白血病を推定することは困難である。
慢性骨髄性白血病では罹患後しばらくは慢性期と呼ばれる状態が続き、特に症状が現れず健康診断などで白血球数の異常が指摘されて初めて受診することも多く、慢性期で自覚症状が現れる場合は脾腫による腹部膨満や微熱、倦怠感の場合が多い。
ただし、慢性骨髄性白血病の自然経過では数年の後必ず、移行期と呼ばれる芽球増加の中間段階を経て急性転化を起こす。
急性期では芽球が著増し急性白血病と同様の状態になる。
慢性リンパ性白血病では一般に進行がゆっくりで無症状のことも多く、やはり健康診断で白血球増加を指摘されて受診することが多いが、しかし80%の患者ではリンパ節の腫脹があり(痛みはないことが多い)他人からリンパ節腫脹を指摘されて受診することもある。
リンパ節の腫れ以外に自覚症状がある場合には倦怠感、脾腫による腹部膨満や寝汗、発熱、皮膚病変などが見られる。
慢性リンパ性白血病の低リスク群では無症状のまま無治療でも天寿を全うすることもあるが、病期が進行してくると貧血や血小板減少が進み、細菌や真菌などの日和見感染症や自己免疫疾患を伴うこともある。
●白血病の検査
白血病の検査では血液検査と骨髄検査が主になる。
白血病の本体は骨髄にあり、白血病の状態を正確に把握するには骨髄検査が不可欠であるが骨髄検査は患者にとって負担の多い検査であり、患者への負担が少ない血液検査も重要になる。(骨髄と血液を川に例えると水源が骨髄で川の水が血液に相当する。水源の異常は川の水質や水量に影響を与える。川の水の状態から水源に異常があることはある程度推測することは出来るが、水源の状態や何が起きているのかを正確に把握するには水源そのものを調べるしかない。しかし水源まで行くことは苦痛を伴い労力が必要なので川の水の状態をこまめに点検し、必要に応じて水源の再点検も行うことが大事になる。)
血液検査(末梢血)で芽球を認めれば白血病の可能性は高い。
末梢血で芽球が認められなくとも、白血球が著増していたり、あるいは赤血球と血小板が著しく減少し非血液疾患の可能性が見つからなければ、骨髄検査が必要になる(白血病では白血球は、著増していることもあれば正常あるいは減少していることもある。10万を超えるような場合以外は白血球数だけでは白血病かどうかは分からない)。
骨髄で芽球の割合が著増していたり、極端な過形成であればやはり白血病の可能性は非常に高い。
急性白血病の骨髄では芽球の増加を認め、WHO分類では骨髄の有核細胞のなかでの芽球の割合が20%以上であれば急性白血病と定義するので骨髄検査を行わないと診断を確定できない。
さらに骨髄内の有核細胞中の MPO陽性比率や非特異的エステラーゼ染色や免疫学的マーカー捜索によって急性白血病中の病型の診断を確定させる。
CML や CLL でも骨髄でのそれぞれの特徴的な骨髄像の確認は重要であり、CML ではフィラデルフィア染色体の捜索を行う。
また、白血病細胞の中枢神経への浸潤の可能性や脾・肝臓腫、感染症などの白血病の症状を探るための諸検査(CT検査、脳脊髄液検査、細菌培養検査等)も行われる。
急性白血病細胞は多くの場合、白血球の幼若な細胞と類似した形態を取るため、芽球あるいは芽球様細胞と呼ばれる。
血液細胞は大きくは、白血球、赤血球、血小板の3種の分けられるが、白血病細胞(芽球)は赤血球や血小板と違って有核であり、また赤血球と違い溶血剤に溶けず血小板とはサイズが違うので、正常な白血球ではないが自動血球計数器で分析する血液検査の血液分画(血液細胞の分類とカウント)の中では白血球の区分に入れられる(高性能な検査機や検査技師が行う目視検査では血液細胞の種類ごとに細かく分類ができる)。
急性白血病の血液検査ではヘモグロビンや血小板数は低下していることが多く、芽球が認められることが多い。
血液中の有核細胞が多数の骨髄系芽球と少数の正常な白血球だけで中間の成熟段階の細胞を欠けば(白血病裂孔)急性骨髄性白血病の可能性が高く、リンパ芽球が多数現れていれば急性リンパ性白血病の可能性が高い。
芽球から成熟した芽球を含めた白血球総数は著明に増加していることが多いが、なかには正常あるいは減少していることもある。
慢性骨髄性白血病では、血液、骨髄の両方で芽球から成熟した細胞まで白血球の著明な増加があり血小板も増加していることが多く、慢性リンパ性白血病では成熟したリンパ球が著明に増加する。
急性白血病細胞は分化能を失い幼若な形態(芽球)のまま数を増やすので、骨髄は一様な細胞で埋め尽くされる。
慢性白血病では細胞は分化能を失わずに、しかし正常なコントロールを失って自律的な過剰な増殖を行うので正常な骨髄に比べて各成熟段階の白血球系細胞が顕著に多くなる(過形成)。骨髄検査では各細胞を細かく分けてカウントし、とくに芽球の割合と形態が重要になる。赤芽球は通常では芽球には含まれないが、赤白血病 (AML-M6) では白血病細胞の半数程度は赤芽球と同様の表面抗原を発現するため、赤白血病を疑われたときのみ、芽球に赤芽球を含める。