2014年05月24日

がんの疫学

●悪性腫瘍に関連する医学的分類

悪性腫瘍(malignant tumor)の用語は病理学において以下のように分類される。

#癌腫(羅: carcinoma):上皮組織由来の悪性腫瘍

#肉腫(羅: sarcoma):非上皮組織由来の悪性腫瘍

#その他:白血病など




●がんの疫学

日本では1981年から死因のトップとなり、2010年度は死因の約3割を占めている。

世界保健機関 (WHO) によれば、2005年の世界の5800万人の死亡のうち、悪性腫瘍による死亡は13%(760万人)を占める。

死亡原因となった悪性腫瘍のうち、最多のものは肺がん(130万人)で、胃がん(100万人)、肝がん、大腸がん、乳がんなどが続く。

悪性腫瘍による死亡は増加し続け、2030年には1140万人が悪性腫瘍で死亡すると予測されている。

WHOによると、禁煙・健康的な食生活・適度な運動により、悪性腫瘍による死亡のうち、40%は予防可能であるとされる。

特に喫煙は予防可能な死亡の最大の原因とされ、肺がんの80-90%が喫煙に起因する。

受動喫煙も肺がんの原因である。

後述環境と食事・予防も参照


●がんの発生機序

悪性腫瘍が生じるしくみについては様々な説明がある。

比較的多い説明というのは、遺伝子におきた何らかの変化・病変が関わって生じている、とする説明である。

では、その遺伝子の何らかの病変がどのように生じているのか、ということに関しては、実に様々な要素・条件が指摘されていて、研究者ごとにその指摘の内容や列挙のしかたは異なる。



数百年前に比べれば、かなり多くのことが判ってきてはいるものの、現在でも悪性腫瘍発生のしくみの全てがすっきりと解明されているとも言えず、研究者を越えて同一の考え方が共有されているとも言い難い。


発生機序について、どの説明でもほぼ共通して言及されている内容というのは、何らかの遺伝子の変化と細胞の増殖の関係である。

その説明というのは例えば以下のようなものである。

身体を構成している数十兆の細胞は、分裂・増殖と、「プログラムされた細胞死」(アポトーシス)を繰り返している。

正常な状態では、細胞の成長と分裂は、身体が新しい細胞を必要とするときのみ引き起こされるよう制御されている。

すなわち細胞が老化・欠損して死滅する時に新しい細胞が生じて置き換わる。

ところが特定の遺伝子(p53など、通常複数の遺伝子)に変異(=書き変わること)が生じると、このプロセスの秩序を乱してしまうようになる。

すなわち、身体が必要としていない場合でも細胞分裂を起こして増殖し、逆に死滅すべき細胞が死滅しなくなる。



ただし、数十兆個の細胞で構成されている人体全体では、実は、毎日数千個単位で遺伝子の病変は生じており、それでも健康な人の場合は一般に、体内に生じた遺伝子が病変した細胞を、なんらかのしくみによって統制することに成功しており(免疫やいわゆる自然治癒力)、遺伝子が病変した悪性のがん細胞が 体内にある程度の個数存在するからといって、必ずしも人体レベルで悪性腫瘍になるというわけでもない、ということも近年では明らかにされている。



一方で「全ての遺伝子の突然変異ががんに関係しているわけではなく、特定の遺伝子(下述)の変異だけが関与している」と述べたり主張したりする研究者もいるが、他方で、「発癌には様々なプロセスが関わっている」「がんに関与する因子ならびにがんに至るプロセスは単一ではなく、複数の遺伝子変異なども含めて様々な機構の不具合が関与する」とする研究者もいるのである(多段階発癌説)。


臨床の現場で「悪性腫瘍」と判断される段階に至るまでには、個々の細胞の遺伝子の変化以外にも、人体のマクロレベルで働いている機構(例えば、がん化した細胞を制御する免疫機構、広く自然治癒力とも呼ばれているしくみなど)が不具合に陥ってしまうことも含めて、さまざまな内的・外的な要因が複雑に作用している、とも指摘されているのである。


近年では大規模統計、疫学的な調査によって、人々の生活環境に存在する化学物質などの外的な要因や、その人の生活習慣など、様々な条件・要因が悪性腫瘍発生の要因として働いている、と分析されるようになっている(後述)。


また、今日では、最近研究が進んだエピジェネティック研究も反映して、遺伝子のエピジェネティック変化が要因となることもある、と指摘されることもある。

このように悪性腫瘍の発生機序については、諸見解があるものの、いずれにせよ、そうして生じた過剰な細胞は組織の塊を形成し、臨床の場でも認識できるようになり、医師等によって「腫瘍」あるいは「新生物」と呼ばれるようになる。

そして、腫瘍は「良性(非がん性)」と「悪性(がん性)」に分類されることになる。

良性腫瘍とは、まれに命を脅かすことがあるが(特に脳に出来た場合)、身体の他の部分に浸潤や転移はせず、肥大化も見られないものをそう呼んでいる。

一方、悪性腫瘍は浸潤・転移し、生命を脅かすものをそう呼んでいるのである。




posted by ホーライ at 23:58| Comment(0) | TrackBack(0) | がんについての説明 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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